厚生年金保険とは、厚生年金保険法等に基づいて、主に日本の民間企業の労働者が加入する公的年金制度の事です。
尚、現在の公務員や私学教職員の年金制度である公務員共済や私学共済は、今後この厚生年金に統一する流れが組み込まれており保険料率も厚生年金保険料率に準じて増加する事が決定しております。
ですから公務員や私学教職員の方も将来を見据えて厚生年金保険料の仕組みについて学習しておくことが大切です。
厚生年金保険制度は、現在までに繰り返しその内容や支給開始年齢などに変更が加えられている制度です。
高齢化が進む日本では現状制度の維持も不可能であることから、今後も様々な条件変更が段階的に加えられる事が予想される制度でもあります。
日本が確立してきた年金制度は、たったひとつの法改正で状況が一変する可能性を持つ制度である事は、今までの流れを見ても十分理解できてきているかと思います。
尚、今後注意して確認しておくべきポイントとしては代表的な部分として、厚生年金保険と共済年金の一元化に関する流れ、及び既に決定し実施されている厚生年金保険料額の段階的な増加です。
既に実施されている保険料率の段階的な増加に関してはご存知の方が大半かと思います。
しかし、実際にどのように保険料率が推移し、どの程度自己負担額が増加するのか?という点が解りにくく見えてこないという方が大半であるのが現状ではないでしょうか?
ここからは保険料率の変更と、実際に毎年変更する保険料率に合わせて厚生年金保険料額を自分自身で計算する流れについて入門者向きにひとつずつ流れをおって解説していきたいと思います。
厚生年金保険料の引き上げが決定したのは2004年の年金制度改正によるもので、おおまかな概要だけをまとめると厚生年金保険料率を4.72%引き上げるというものじゃ。
但し、突然4.72%もの負担増加となれば折半負担を行う企業も会社員も反発が強くなる事が明らかであった事もあり、この引き上げは毎年0.354%ずつ引き上げ平成29年(2017)に目的とする4.72%の引上げを達成する制度となっておる。
【厚生年金保険料料率の推移一覧表】 | |||
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年度 | 一般 | ||
全額 | 会社折半額 | ||
平成16年(2004年) 9月31日まで | 13.580% | 6.790% | |
平成16年(2004年) 9月以降 | 13.934% | 6.967% | |
平成17年(2005年) 9月以降 | 14.288% | 7.144% | |
平成18年(2006年) 9月以降 | 14.642% | 7.321% | |
平成19年(2007年) 9月以降 | 14.996% | 7.498% | |
平成20年(2008年) 9月以降 | 15.350% | 7.675% | |
平成21年(2009年) 9月以降 | 15.704% | 7.852% | |
平成22年(2010年) 9月以降 | 16.058% | 8.029% | |
平成23年(2011年) 9月以降 | 16.412% | 8.206% | |
平成24年(2012年) 9月以降 | 16.766% | 8.383% | |
平成25年(2013年) 9月以降 | 17.120% | 8.560% | |
平成26年(2014年) 9月以降 | 17.740% | 8.870% | |
平成27年(2015年) 9月以降 | 17.828% | 8.914% | |
平成28年(2016年) 9月以降 | 18.182% | 9.019% | |
平成29年(2017年) 9月以降 | 18.300% | 9.150% |
厚生年金は平均余命から算出すると納付してきた金額の数倍にあたる金額を受給できる夢のような制度と認識されておった。
しかし近年の専門家の意見の多くは、現実的に納付額よりも少ない受給額となる可能性が高いというシビアな意見が多いのぉ。
尚、厚生労働省の見解では2005年生まれの子供の将来の保険料に対する受給額についても、約2.3倍の受給額となるという見解を示しておる。
現在の多くの専門家の意見とは全くかけ離れており、どちらが正しい見込みであるのかは誰にも解らないという訳じゃ。
但し、厚生労働省が発表した見解には「賃金上昇率2.1%を想定した場合」という現在の日本の状況からやや逸脱した内容が小さく記載されておる点も覚えておくべきじゃろう。
厚生年金保険料は前述した通り、平成29年9月以降までに段階的に保険料率が上昇し、最終的な保険料率は18.3%となることが既に決まっておる。
では、ここからは厚生年金保険料の計算を行う際に事前に確認しておくべきポイントについてチェックしておくとしよう。
まず、厚生年金保険料の計算では、給与額に応じて「等級」と呼ばれるランクに分類されておる点を把握しておく必要がある。
等級は全部で30等級設けられており、「収入が幾らから幾らまでの範囲は◯等級」といったように一定の範囲内で等級が設定されておる点がポイントじゃ。
厚生年金保険料の計算では等級別に一定の収入の範囲内で保険料率を乗じて保険料額を定めることはここまで解説してきた通りじゃ。
尚、この等級別で計算されるのは「給与」に当たる部分のみで、「賞与」いわゆるボーナスに関しては等級に関係なくボーナスの金額に対してその年度の厚生年金保険料率をかけて算出することとなっておる。
要は給与は「等級」で計算を行い、賞与はそのまま支給額をもとに計算するため、別々に計算した後に合算した金額を収める事となる点を覚えておく必要があるのじゃな。
また、企業役員や、外資系企業社員、また保険外交員などに多い年俸制による給与支給を受けているものは、シンプルに年俸総額を12ヶ月で割り一ヶ月の給与額を算出し、等級ごとに計算を行うのじゃよ。
では、ここからは具体的に毎月納めるべき厚生年金保険料額を自分で算出してみましょう。
今回の計算事例では日本年金機構が公開している平成25年度(平成24年9月1日~平成25年8月31日)の給与に対する厚生年金保険料額表をもとに計算します。(※厚生年金保険料額表は別窓で表示されますので本ページを見ながら計算できるので便利です)
■月給34万円ボーナス無しの社員の場合の計算事例
この場合は月額給与が34万円ですから厚生年金保険料額表を確認すると33万円~35万円の範囲の20等級に該当することがわかります。
厚生年金保険料額の計算では、このように自分の給与が該当する等級をまず見つける事が大切です。
この20等級の厚生年金保険料額は57,004.4円(50銭以下は切り捨てのため57,004円となる)、会社が負担する折半額は28,502円ですから
57,004円-28,502円=28,502円
となり、この社員の厚生年金負担額は毎月28,502円となることがわかります。
■月給46万円夏冬ボーナス各719,600円の場合の計算事例
続いては、月給と夏冬年2回の賞与がある場合の事例です。
この場合は月額給与と賞与(ボーナス)に分けて厚生年金保険料額を算出する必要があります。
まず月額給与は46万円ですから厚生年金保険料額表を確認すると45.5万円~48.5万円の範囲の25等級に該当することがわかります。
この25等級の厚生年金保険料額は78,800円、会社が負担する折半額は39,400円ですから
78,800円-39,400円=39,400円
となり、この社員の毎月の給与部分に当たる厚生年金負担額は39,400円となることがわかります。
更に今回の事例の社員は年2回の賞与が支給されているため、賞与部分に当たる厚生年金保険料額を算出する必要があります。
賞与の計算では、賞与(ボーナス)・年俸制の厚生年金保険料の計算の項でも解説した通り、等級を考慮せず賞与額に厚生年金保険料額を乗じて算出する点、及び賞与額の1000円未満を切り捨てで計算する点を把握しておく必要があります。
ですから、この事例のケースでは
719,000円(千円以下切り捨て)X16.766%=120,547.54円
となり、この社員の賞与にかかる厚生年金保険料額は夏・冬各120,548円(50銭以上切り上げとなるため)となります。
尚、賞与の厚生年金保険料も会社が折半で納付するため、賞与の厚生年金保険料個人の負担額は
120,548÷2=60,274円
となり、夏・冬の賞与支給月は給与分と賞与分の両方の厚生年金保険料額を納付するため
39,400円(給与分)+60,274円=99,674円
となり、夏のボーナス時、冬のボーナス時の給与明細では99,674円が厚生年金保険料額個人負担分として天引きされる事になります。
■年俸960万円ボーナス無しの社員の場合の計算事例
続いては、外資系企業等に多い年俸制を導入している企業にお勤めの方の厚生年金保険料額の計算方法です。
この年俸制のケースではまず年俸を12ヶ月で割り、1ヶ月相当分の給与額を計算する必要があります。
960万円(年俸)÷12=80万円
この場合は月額給与が80万円の社員とみなし計算する為、今までと同じように厚生年金保険料額表を確認すると60.5万円以上の範囲の30等級に該当することがわかります。
尚、厚生年金保険料額は月額60万5千円以上は一律30等級を利用して計算する点がポイントです。
この30等級の厚生年金保険料額は103,949円、会社が負担する折半額は51,974.6円(50銭以上は切り上げのため51,975円となる)ですから
103,949円-51,975円=51,974円
となり、この社員の厚生年金負担額は毎月51,974円となることがわかります。
■月給74万円夏冬ボーナス各200万円の場合の計算事例
続いては、先ほどの計算事例と同じように月給と夏冬年2回の賞与がある場合の事例です。
今回の事例の大きな違いは賞与額が夏200万円・冬200万円と高額な賞与となっている点です。
この場合もやはり月額給与と賞与(ボーナス)に分けて厚生年金保険料額を算出する必要があります。
まず月額給与は74万円ですから厚生年金保険料額表を確認すると先程の年俸制の事例同様60.5万円以上の範囲の30等級に該当することがわかります。
この30等級の厚生年金保険料額は103,949円、会社が負担する折半額は51,974.6円(50銭以上は切り上げのため51,975円となる)ですから
103,949円-51,975円=51,974円
となり、この社員の厚生年金負担額は毎月51,974円となることがわかります。
続いて、賞与部分に当たる厚生年金保険料額を算出する必要がありますが今回の事例では賞与の上限について覚えておくべきポイントがあります。
賞与の計算では、等級を考慮せず賞与額にその年度の厚生年金保険料額を乗じて算出しますが、一月に支給された賞与額が150万円を超える場合は150万円を上限として厚生年金保険料額を計算するという点です。
ですから、この事例のケースでは実際は200万円の賞与支給であっても上限の150万円で算出する必要があるため
150万円(上限)X16.766%=251,490円
となり、この社員の賞与にかかる厚生年金保険料額は夏・冬各251,490円となります。
尚、賞与の厚生年金保険料も会社が折半で納付するため、賞与の厚生年金保険料個人の負担額は
251,490円÷2=125,745円
となり、夏・冬の賞与支給月は給与分と賞与分の両方の厚生年金保険料額を納付するため
51,974円(給与分)+125,745円=177,719円
となり、夏のボーナス時、冬のボーナス時の給与明細では177,719円が厚生年金保険料額個人負担分として天引きされる事になります。